こんにちは、弁護士の尾形です。
今回は、刑法175条のわいせつ物頒布等罪について、解説します。
1 はじめに
先日「わいせつな動画を不特定多数の人が見られるようにしたとして、動画投稿サイト『FC2』の開設者が逮捕された」というニュースがありました。詳細は分かりませんが、FC2は、「FC2動画アダルト」というサービスを提供しているので、その提供が、罪に問われたということだと考えられます。
しかし、そもそも、何故、わいせつな動画を不特定多数の人に見られるようにすると、罪に問われるのでしょうか。そして、そもそも、「わいせつ」とは何なのでしょうか。
2 条文の規定内容(刑法175条)
わいせつな動画を不特定多数の人に見られるようにすることは、刑法175条1項のわいせつ物頒布等罪により罪に問われることになっています。条文を見てみましょう。
「わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。」
これは、おおまかにいって、わいせつな物を不特定又は多数の者に配ったり、認識できる状態に置くことです。また、インターネットを使って、そのような行為をすることも処罰の対象となっています。
FC2の開設者は、FC2動画アダルトというサービスを提供しているので、その提供が、この罪に問われたものと考えられます。
では、そもそも「わいせつな物」とは何なのでしょうか。
「わいせつな物」とは何なのか、判例では、「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」とされています。これを3つに分けて、
①性欲の興奮又は刺激
②性的羞恥心の侵害
③善良な性的道義観念への違反
の3要件と言われることがあります。
…この3つの要件、何を言っているか分かりますか?これが何を意味するのか、様々解説はありますが、私にはいまだに良く分かりません。
百歩譲って「①性欲の興奮又は刺激」というのは分からなくもないですが、まずもって、「性的羞恥心」とは何なのか分かりません。普通の人だったら、「性的羞恥心」を覚えるもの、それは何なのでしょうか。また、「善良な性的道義観念」というのは何でしょうか。そもそも、そのようなものを裁判官が判断できるのでしょうか。正直、疑問だらけです。
3 わいせつ物頒布等罪の問題点
そういう訳で、そもそも、「わいせつ物」が何かというのは、一般人からすると全然判断がつかない状態なのです。それの何が問題なのかというと、警察の恣意的な運用を許してしまうことが問題なのです。
日本において、アダルトビデオにモザイクをかけないと、わいせつ物頒布等罪により処罰される可能性が高いので、モザイクがかけられている状態なのですが、そもそも、モザイクの有無によって、なぜ、②性的羞恥心が侵害されたり、③善良な性的道義観念へ違反することになるのでしょうか。意味不明です。結局、わいせつ物頒布等罪というのは、「わいせつ物」の意味するところが不明確であるために、警察の恣意的な運用を許しており、かなり危険な状態だと思っています。
そもそも、刑法というのは、保護法益という、その罪が守ることを想定している個人や国家の利益があります。たとえば、殺人罪であれば、個人の生命、不同意わいせつ罪であれば、個人の性的自由が保護法益とされます。一方、わいせつ物頒布等罪の保護法益は、伝統的には「性秩序ないし健全な性的風俗」とされています。しかし「性秩序ないし健全な性的風俗」とは何でしょうか。わいせつ物により、何故それらが害されるといえるのでしょうか。性秩序や性的風俗が害されたというのは、検証可能なものなのでしょうか。全くの謎です。そのため、この罪が何を守っているのか、そもそも守るべきものなのかも謎です。
4 終わりに
これまで解説してきた観点、そもそも「わいせつ物」の意味が不明であること、わいせつ物頒布等罪が守っているものが謎であること等から、わいせつ物頒布等罪が憲法に違反して無効なのではないかと、争われることがあり、今回のFC2の事件でも、そのような主張がなされるのではないかと考えられます。個人的には、わいせつ物頒布等罪(刑法175条)は、警察の恣意的運用を許すなど極めて問題が多いので、早く条文ごと廃止されて欲しいと思っています。
今回の解説は以上となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。